アートキャラバン・サテライト企画レポート 劇団あはひ

劇団あはひによるワークショップとトークイベント
「劇の交差点」

日程・プログラム

《東京》ワークショップ「メディアでする演劇」

2024年1月24日(水)18:30~21:00

会場 早稲田小劇場どらま館

〒169-0071 東京都新宿区戸塚町1-101-3

講師 須藤崇規(映像ディレクター)

概要はこちら

学生演劇の盛んな早稲田大学のどらま館にて開催された、劇団あはひ『劇の交差点』。東京での1日目は、映像ディレクター・須藤崇規さんをお迎えしてのワークショップでした。

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須藤さんは劇団あはひさんの公演はもちろん、多くの舞台に映像スタッフとして携われている方です。演出意図を組み、どのように作品へ映像を取り入れたらいいか、新たな表現方法を提案し、実際に製作も行っていると自己紹介をされていました。参加者はほとんどが俳優をやっているという、おそらく学生さんかと思われる若い方たち。舞台上には開場時間からカメラやプロジェクター、スクリーンが置かれており、この日のタイトルである「メディアでする演劇」とはどのような内容なのか、皆、興味津々な様子でした。

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ワークショップが始まると、まず須藤さんから「メディア」の定義やその解釈の変遷について解説が。そして「“メディア”とは“メッセージ”である」というのがこの日のキーワードになると、伝えられました。

参加者には受付の際、文章の書かれた数枚の資料が渡されていたのですが、それが『猫語の教科書』という小説の一部であることが説明されます。最初のワークは、全員で少しずつこの小説の本読みをし、全体像を把握してすること。小説ですが、須藤さんにより10のシーンに区切られていて、それぞれA4半ページ程にまとめられています。読んでいくと、これが“猫”目線で書かれた物語であることがわかります。

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本読みをした後に、今度は、この小説に出てくる登場人物の整理をしていきます。また、この小説の前書きにある、作品の背景についても説明がありました。この作品を表現する上で必要だと思われる構成要素を並べてから、次のワークへと進みます。

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続いて行ったのは、この小説を舞台で表現するためのプランをたくさん考え、その構造を図示するというもの。例えば猫が子猫に話しかけているシーンの場合、「猫」の一人語りを「観客」が観ているパターンもあれば、舞台上で「猫」が「子猫」に話しかけており、それを「観客」が観ている、というパターンも考えられます。ここにさらにもう一つの要素として「メディア」を加えます。舞台上にある、カメラ、プロジェクター、スクリーン、影絵を作れるライト、マイクなどは自由に使っていいものとして、それらを使うとどのようなパターンが考えられるか、という課題です。

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例として須藤さんが見せてくれたのは、「猫」の語りを「マイク」を使ったナレーションで入れ、「猫」の様子は「影絵」で描き、それを「子猫」が見ており、その様子を「観客」が観ている、というパターン。テクノロジーを使用することで、表現方法の選択肢が増え、プランの可能性も各段に広がっていくのです。このワークは各人で取り組み、紙になるべくたくさんのパターンを書いていきます。

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個人ワークの時間が終わると、今度は全体を2つのグループに分け、各々のプランについてグループ内でディスカッションをします。自分のプランをプレゼンしつつ、他の人のプランと合体できるところを探ったり、より良いプランを作成したりするための時間です。ここにはかなり長い時間を費やしました。試しに舞台上で機材を使ってみることもでき、頭で考えたことを実際にやってみるとどうなるのか、検証ができる有意義な体験だったと思います。こうして固まったプランを、各グループ2シーンずつ発表していきます。どちらのグループもそれぞれテクノロジーを上手に使い、面白い作品に仕上げていました。

さて、発表を受け、須藤さんがそれぞれにコメントしていきます。人間の夫婦が会話するシーンを影を使って表現していたグループに対しては、影にしたことにより表情が読み取れず、どこか寓話的・記号的なシーンとなっていたこと、また、マイクを手に持っているのにあえてサイレントで表現していたグループに対しては、テクノロジーの機能ではなくそれ自体が持つ“意味”を利用できていたことなど、プロならではの視点でフィードバックがあり、参加者にとってとても大きな学びになっていたようでした。

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発表の前から須藤さんがお話しされていたのは、カメラやマイク、プロジェクターを使うアイディアはたくさん出てくるわけですが、それがどのような「効果」をもたらすのかまで、しっかり認識しておいた方がいいということ。会の最後にも、「世の中が多様化・複雑化している中で、コミュニケーションも予期せぬ方向に連鎖するようになってきている。この先、そんな現代の様子を表そうとした時に、必ず『メディア』が必要になってくる。そして、映像を使うこと自体が大切なのではなく、映像を“どう”使うかが重要であり、“どう”使ったかが、そのまま『メッセージ』になる」のだとお話ししてくれました。最初に掲げていたキーワード「“メディア”とは“メッセージ”である」が、腑に落ちた瞬間だったように感じます。

小規模の団体で活動する若い演劇人だと、表現に最新の機材を取り入れることができず、その結果、発想としてもテクノロジーを利用した演出にたどり着くことはなかなか難しいのではないかと感じます。このような映像についてのワークショップを受けることは、演出の可能性を広げるきっかけになり、これから表現したいことの幅も広がっていくのではないでしょうか。今回の参加者がここで吸収したことをそれぞれの団体に持ち帰り、若い演劇人から、どんどんと新しい表現が生まれてくることに期待したいです。

レポート:福永光宏

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