アートキャラバン・サテライト企画レポート 青年団/有限会社アゴラ企画

豊岡俳優キャンプ

日程

2024年1月8日(月)17:00~19:30(最終日)

会場

江原河畔劇場
〒669-5311 兵庫県豊岡市日高町日置65-10

講師 平田オリザ(劇作家・演出家・青年団主宰)

概要はこちら

15時過ぎに江原駅に到着。あいにくの雪となったこの日でしたが、江原河畔劇場に伺うと入口には行列ができており、15時半の回で千秋楽を迎える、「たじま児童劇団」の第3回公演『転校生』を観に来たお客様のものでした。『転校生』は1994年に初演された、平田オリザさんの代表作。豊岡市に本拠地を移された青年団と平田さん、そして江原河畔劇場さんによって、地元の中高生からなる「たじま児童劇団」の新たな定番演目にするべく上演されたそうです。

このように演劇を通して地域貢献をしている平田さんですが、『転校生』の上演と同時進行で開催されていたのが「豊岡俳優キャンプ」でした。全国各地から俳優を集め、豊岡で合宿をしながら行われる俳優ワークショップで、伺った最終日には創作発表が行われます。

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劇場のすぐ隣にある、ワークピア日高という市の施設では、発表を数時間後に控えたキャンプの参加者たちが、3つのグループに分かれて自主稽古をしているところでした。各チームがプロットを基に15分の短編作品を作り上げるワークで、台本はなく、エチュード(即興)で作り上げていく方法で進められています。後ほど平田さんに伺ったところ、プロット自体も参加者たちから募ったものとのこと。人気投票で選ばれた3つに対して、それぞれ参加したい俳優が自主的に志願し、結成されたチームで稽古をしていくという、俳優自身の自主性が重要なワークショップなのでした。

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発表会は江原河畔劇場の2Fにあるスタジオで行われます。キャンプ参加者は、本番を終えた「たじま児童劇団」と入れ替わりで、発表会の1時間前に小屋入りしました。特に舞台もセットもなく、椅子や机など、その場にあるものだけを使っての作品発表になります。ギリギリまで各チームとも稽古に余念がなく、上演時間の15分に合わせてタイムキープをしながら、繰り返し動き、改良している様子が見られました。エチュードで作っていくのでなかなか思うように進まず、「ずっと同じことを言っていて進展してない」「心境の変化が起きるにはもっと強い言葉が必要」など、意見を交わしているチームもありました。

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開演時間10分前になると、制作担当の太田さんから参加者全員に注意事項が伝えられ、発表の準備に入りました。1つのチームが発表をしている間、他の2チームは客席で観ているルール。前の発表が終わると、次のチームが素早く置き道具などの準備をして、発表を始めるという段取りになります。

この発表会は自由に観覧できるようになっており、先ほどまで『転校生』を観劇していた方、スタッフとして携わっていた方なども含め、40名ほどが観にいらしていました。江原河畔劇場の活動の成果によって、地元の方々も演劇への関心が年々高くなっており、全国で活躍している俳優たちの発表会と聞いて観覧に来た方もいらしたようです。

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開演時間になると、まず平田さんがこのキャンプの趣旨や、どのよう過程を経て今日に至ったかを紹介していました。4泊5日のキャンプで俳優たちは徹底的に“創作”を意識し、チャレンジしていたことが観客に伝えられます。また、作品は15分以内とすること、一幕ものであること(出入りは自由、一つの空間であること)などの条件や、参加者たちに「場所・背景・問題」からなるプロットを書かせ、その中から選ばれた3本を各チームがエチュードで作品に仕上げていったことも改めて説明されました。

どのチームもしっかりと15分以内で、とても面白い作品を発表していき、客席からも笑いが起こる、完成度の高い発表となっていました。

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終わると再度、平田さんが前に出て、各チームへのフィードバックをしていきます。短時間で作った作品なので、もちろん多くは望んでいないのでしょうが、専門的なアドバイスや改善すべき点、「前半で役回りの説明が足りなかった」「オチが急なので伏線があるとよかった」「拾えるセリフがあったのにもったいない」などのコメントは、どれも言われてみると「確かに!」と感じるような内容ばかりでした。コメントが終わると、今度は客席からの質問や感想を募る時間に。数名の方が手を挙げてくださり、好意的な感想や、鋭い質問などが出てきました。

中でも興味深かったのは、「何故 “俳優”のキャンプなのに、“創作”に力を入れていたのですか?」という質問。これはおそらく観に来ていた人の多くが感じていたことだったと思います。参加者には最初の段階で説明されていたことだったようですが、平田さんから観客へ、この問いに対するわかりやすい説明がありました。それは平田さんが感じている日本の演劇界に足りないもの、今後強化していくべき点に関係の深いことだったのです。
「日本の俳優は“創作”の力が弱い、するとどうしても作家や演出家と同レベルで “創作”を語れないようになる。これが上下関係を生み、ハラスメントの温床になっている」と。「“創作”の力をつけることで、俳優はプロットを理解し、戯曲の短所に気付けるようになり、作品のレベル向上に参加することができる。そのことが結果的にハラスメント防止にも繋がる」という、とても重要なテーマがこのワークショップには内在していました。

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平田さんのお話にはよく、「海外では当たり前」というセンテンスが出てくるのですが、演劇の先進国である欧米のシステムをどんどんと日本にも取り込んでいきたいとお考えのようでした。今回の「キャンプ」もそのひとつで、合宿スタイルで集中的に実施することは、ワークショップの効果も高まるため、海外では当たり前なのだそう。日本では予算の問題もあり、なかなか定着しないのだと教えてくださいました。

「俳優レベルの向上のために、“創作”の力が必要」という考え自体、実は日本の演劇界ではあまり浸透していないように思われます。平田さんのお話を通して、このキャンプの意義に改めて気づかされました。考え方を含めて、こういった企画が日本でも定着するよう、今回のキャンプについて周知していきたいと思いました。

レポート:福永光宏

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