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日程
2023年12月27日(水)13:00〜16:00
会場
山吹ファクトリー
〒162-0801 東京都新宿区山吹町341-4 博龍ビル3階
ファシリテーター
山本タカ(くちびるの会 代表/脚本・演出)
アシスタント
北澤小枝子、橘 花梨、永田涼香
概要はこちら
タイトルだけを見ると子ども向けのワークショップだと勘違いしやすいですが、今回の企画は「子ども向け演劇」をやるためのワークショップ。「子ども向け演劇」に関心のある方たちに向けた内容です。
会場に到着すると、すでに参加者を迎える準備は万端で、“セット”と呼んでもいいくらいの建て込み(紙おしばい用の台や裏通りのためのパネルなど)がされていました。アシスタントの3名の女優さんは、すでに山本さんと一緒に何度も子ども向け演劇に取り組んできた方たち。今回も山本さんの進行を支えるだけでなく、参加者に具体的な経験やアドバイスを伝え、最後には短いシーンの上演もしてくださいました。スタートからしっかりと“チーム”になっている印象です。
さて、開始時間になると、まず山本さんから自己紹介があり、続いて参加者の自己紹介になりました。「子ども向け演劇」に関心のある方が集まっているのはもちろんなのですが、思っていた以上に既に「子ども向け演劇」に携わっている方や保育の勉強をされている方が多く、ゼロから学ぶというよりは、子ども向けの難しさを知った上で、さらに見識を高めたい目的で参加されている方がたくさんいらっしゃる印象でした。
くちびるの会さんは2019年から「紙おしばい」というコンテンツ(シーンの背景を絵にして、紙芝居のように次々と絵を変えることで場面転換を表現し、その前で役者は演技をする)を開発していて、これまでに数々の上演の実績があります。一口に“子ども”と言っても、年齢や環境によって鑑賞の前提が大きく変わり、くちびるの会さんはその都度「学習」し、データを「蓄積」して、作品に「改良」「改善」を加えた結果、今の形があるのだと言います。
企画の趣旨を共有したあと、参加者全員で「紙おしばい」用の台本の本読みをします。主なキャラクターとしてたぬきの兄弟が出てくる物語で、もう一人いろいろな役をする人が必要なので、合計3人用の台本になります。これを順番に読んでいき、参加者に芝居全体の構造を理解してもらいます。本読みをしながらも、山本さんは作劇の際のポイントを話していき、子どもの興味を引くためのいろいろな仕掛けがあることも明かしてくれました。何かと話が脱線して膨らみがちなワークショップですが、アシスタントチームがしっかり全体のタイムキープをしていて、ここでもチームワークの良さを感じます。
次に参加者を2人ペアにして、シーン7の読み合わせ、そして軽く立ち稽古まで行います。シーン7はたぬきの兄弟が2人だけで、子どもらしい言い合いになる場面です。これを各チームがどう演じるのか、上演スタイルで順番に発表していき、山本さんがしっかりとフィードバックしていきます。短時間で作ったシーンなので改善点があるのは当然ですが、山本さんのフィードバックはほぼ“演出”の領域で、表面的に“子ども向け”にするのではなく、もっと多層的な演技を求めている印象でした。例えば、「街中での場面なので、兄弟のやり取りの周囲には多くの人がいるはず。それを少し気にしながらやってみましょう」とか、「弟はただワガママでわめいているわけではなく、わめくことで自分に有利な条件を引き出そうと、少し打算的な部分があってもいい」など、通常の芝居の演出同様に細かなニュアンスを付けていく作業なのでした。
これについて、実は前半でも山本さんが話をしており、相手が子どもだからと言って、表現を“子ども向け”にするのは違うのだと。子どもでも、“本当に”そこで“起こった”ことにはちゃんと反応する。だからこそ、役者はいかに舞台で“本当”を見せるかが重要なのだということでした。“リアル”な感情を表現することで芝居に集中させるという点では、大人向けの演劇でも同じです。つまり、このワークショップでは、より役に踏み込み、いかに“本当”を感じさせる演技をするかを教えてくれているのでした。
もちろん、対象が子どもであるからこそのテクニック的な部分もあります。それは最後のプチ上演の際に、アシスタントチームが体現してくれました。例えば、子どもでも0~2歳児くらいだと、大きな声を出しただけで泣いてしまうこともあるので、大きな声の上限を決めておき、それを上演前に説明しておくこと。前説から急に芝居に入ると、何かが憑依したように見えて、子どもは怖がってしまうので、徐々にスライドしていくといいことなど、とても興味深い、経験からしか学べないノウハウがたくさんあるのでした。
個人的に面白かったのは、途中で野犬が出てくるシーンでの一幕です。幼いたぬきの弟が追いかけられるので、実際にかなり怖い犬の人形が出てきます。それを見て、「子どもが本当に怖がってしまうのでは?」という問いに対しては、実は「それでいい」のだそうです。怖がらせることも体験なので、まずはそのまま怖いシーンにしてしまうのだと。しかし、そこへお兄ちゃんが助けに来たときには、子どもたちをしっかりと安心させることで、お兄ちゃんの強さ、かっこよさが伝わるのだと言います。怖い場面の表現を弱めるのではなく、安心する場面の表現を強めることで、より深く物語の世界に入り込める。「恐怖」から「安心」のような、感情のジェットコースターを体験させることこそが演劇体験なのだと、山本さんは教えてくれました。さらに、子どもたちの集中が続くのは25分ほどだとわかってきたため、その辺りに少し変わった派手な場面転換を持ってくるようにするなど、演技以外での物語の構造的にも“子ども向け”にしている部分もたくさんあるのでした。
多くの発見があり、参加者にとって、とても良いワークショップだったと思います。こういったノウハウをたくさんの劇団に共有することで、より多くの子どもたちに演劇を体験してもらうことができるため、もっともっと横のつながりを作って、この活動を広げていけたらと感じた3時間でした。
レポート:福永光宏