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全国には数えきれないほどの劇団があります。地域や世代によって、そして時代の影響によってもさまざまな変化があるなか、それぞれがあえて「劇団」という形を選んで活動をしています。
結成が1982年の燐光群、1998年のヨーロッパ企画、2011年のMICHInoXと、世代の異なる3劇団の方々に、それぞれの現在地や「劇団」であること・「劇団」を続けることなどについてお話いただきました。
鼎談参加者(五十音順)
株式会社オポス(ヨーロッパ企画) 井神拓也さん
有限会社グッドフェローズ(燐光群) 坂手洋二さん
MICHInoX(劇団短距離男道ミサイル) 赤羽ひろみさん
インタビュー・文/河野桃子
鼎談実施日/2024年11月14日(オンライン)
──新型コロナウイルスが5類になって約1年半。今、劇団活動をしていてどのような印象でしょうか。ヨーロッパ企画さんはまさにツアーを終えたところですね。
井神 2か月以上をかけたツアーがやっと終わりました。どこへ伺っても、まるでコロナ禍の前に戻っている印象でした。
赤羽 そうなんですね!おそらくヨーロッパ企画さんは団体としても作品としても成熟していらっしゃるから、「帰ってきてくれて嬉しい」というお客様が多かったのだろうと思いました。MICHInoX(ミチノークス)は今年の5月までは劇団短距離男道ミサイルという名前で活動していて、コロナ禍前はちょうど動員が伸びてた時期だったんです。ツアーも精力的で、やっと地元の仙台だけで動員1,000人を目指せるかなというところの、団体にとっては成長の過渡期でした。今回の作品が5類になった後に約4年ぶりの大阪公演だったのですが、あらためてお客様と関係性を繋ぎ直していく印象でした。
坂手 ヨーロッパ企画さんはきっと大きい劇場が多いから換気がいいのかもしれないけど、小劇場だと何十年も前からインフルエンザが蔓延すると大変なことになるんですよね。いまだにコロナで中止になった劇団もありますし、気をつけるしかない。僕もコロナ禍に全国の小劇場との出会い直しがあって、トランクひとつで全国20数都市まわる単独ツアーをしました。ライブハウスや稽古場やお寺などあらゆるところで上演する一人旅をし、いろんな人にあらためてお世話になりました。これはコロナ対策の助成金をいただいてなんとかやれたことですね。
──誰にとってもほんとうに大変なコロナ禍でした。今、「劇団」というものをどう考えて取り組んでいますか?
赤羽 私個人としてはプロデュース公演の現場に関わることもありますが、今、「劇団」というチームのあり方の可能性をとても感じています。コロナ禍では公演や稽古は難しくてオンラインでのやりとりが多かったですが、劇団は恒常的な活動だからこそ、コロナ禍で得た時間を活用してコミュニケーションを深めることができました。ここから、自分たちの表現したいものや関係性を積み重ねているところです。
井神 コロナ禍はどうしてもできることが限られていましたね。計画の段階で稽古が止まってしまったり、誰かが罹うこともあって、進行が遅れることを考慮に入れていたので再演が多かったです。なので、これからしばらくはどんどん新作を出していきたいという話は劇団内でしています。
坂手 うちはシーラカンスのような古い劇団なのですが……遡ると日本の演劇は能と繋がっていて、世阿弥が室町時代に能を作った時の3つの要素がある。それは、座組、メンバー、場所。3つのどれが欠けても深く掘り下げることができない。劇団では、同じ場所にメンバーがいてお互いに共有している考え方がある。コロナ禍ではできなかったそれが、やっと今できるようになりました。
劇団というものがこの40数年間で大きく変わったことは、やはり1990年に芸術文化振興基金ができたこと。つまり80年代までは助成金をもらったことがなかったんですね。でも日本と違って多くの国が、国立の劇場等がパブリックな劇団を持っていて、かつ、プライベートな演劇人とも組んで上演をしていることが多い。90年代以降にそういったあり方を知っていくなかで、僕たちはプライベートカンパニーであることを良しとして頑張りたいと思ってるけれど、同時に、パブリックなものをちゃんと日本でも確立しないといけないとも思うようになりました。
経済的な効率や成功ではかられないプライベートのカンパニーもあり、今とは違う形でのパブリックなものもあるような、新たな日本の演劇の形を見つけていかなければいけない時代になっていると考えています。
──劇団を続けることについて、その魅力や秘訣、また課題はどんなところにあるのでしょう?
井神 今26年目ですが、長く一緒にやっているからこそできることがあるので、それを手放すのはもったいない。なによりも楽しいですね。ヨーロッパ企画は年に1回しか本公演をしないので、それ以外の時間は好きなことをしていい。年に1度集まると「あぁ皆そろったな」と嬉しくなりますね。年2~3回だと続かなかっただろうので、やはり年中公演をしている燐光群さんはすごいなと思います。
坂手 良いときも悪いときもありますよね。30年同じアトリエを持っているんですが、家賃が払える時と払いにくい時がある。旅(公演)も昔ほど長くはやっていなくて、去年は7ヶ所で精一杯でした。でも、旅の中で確かめられることもあるし学んでいけることもある。続けていると難しいことだらけですよね。
井神 そうですね。今は、うちのメンバーは育児がすごく大変な時期です。稽古やツアーで家を空けたりするので、みんなの納得のいく解決法を探るのが今大変ですね。でもやっぱり劇団員が一番大事なので。そこで辞めてしまうと失うものが大きいので、「お互いに譲り合って乗り越える時期だよね」という話はしています。負担もそれぞれの状況に応じて「この人は仕込みはやるけどこの人は家に帰そう」とか、子どものお迎えに行かないといけないメンバーがいれば「この時間で稽古を終わりたいので午前中から始めましょうか」といったことを毎回話し合っています。そのうち介護もあるし、自分が病気になるかもしれないので、その予行練習だと思ってやっています。
赤羽 サラッとおっしゃいましたけど、やっぱり劇団員が一番大事ですよね。
井神 そこを大事にしないと基盤がなくなりますからね。
坂手 出産・育児はやはり大きな問題ですね。うちも三人の俳優が子育て休業中。一人は2人目を産むことになって「5年経ったら戻ってくる」と言っています。実際に「子どもが手を離れたら帰ってくる」と言って約20年ぶりに本当に帰ってきた人もいます。
赤羽 そうなんですね!
坂手 なにを幸福と考えるかですよね。やっぱり劇団員は大事だし、でも情熱的に演劇や劇団のことを考えていた人が暮らしの方を優先して幸せになれるのならそれでいい。一人ひとり考え方が違うことですから。演劇をやりながら子どもを育てる大変さは、私自身も直面しました。うちの劇団は40年やっているので、昔いた俳優の娘が入ってきて、その娘がまた結婚をして子どもを産むから辞める……ということも(笑)。今は笑い話になっても、そのときの当事者にとっては深刻なことだらけです。
赤羽 場所があり続けたからこそ20年経って帰ってこれたとも言えますよね。うちは30代半ばの世代が一番多いんですが、下が20歳で上が62歳なんです。今年の公演中も大学生はインターンに行きたいし就職のことも考えたい、でも30代半は「俳優だけでやってくぞ」と稽古を一生懸命やりたいし、子育てをしている人もいる。そのどれもが劇団にとって大切なことで、幅のあるメンバーたちが能力を一番発揮できる環境をどうしたら作れるのかを考え続けています。
──劇団として、緊急事態舞台芸術ネットワークに期待することはありますか?
井神 物流についてトラックの労働時間や、下請け法やフリーランス法などの法律が変わってきているので、情報交換や情報提供の機会があるのはありがたいです。京都ではそういう環境が多くはないし、同業者も限られていて出会いの場がないので、知り合いや相談相手ができることは助かりますね。
坂手 運送費は大問題ですね。僕らは今年は劇団員が運転することにしました。
井神 ええ!
坂手 久しぶりに安いレンタカー屋も駐車場も探しました。おふたりが言われるように劇団員が一番大事で基本的な人権はもちろん確保しなくちゃいけないので、無理のないように調整しながら。現在の演劇情況は、お金の動きに合わせたり、「この企画なら通りやすい」といったように、なにかに当てはめて物事が動いている気がするんです。そして批評が沈滞している。いろんな意味で全部を見直していかないといけない。そういうことを、派閥づくりや利益誘導でなく、個々が尊重されながら、才能がある人が大事にされる環境を作っていくことに緊急事態舞台芸術ネットワークが取り組まれるビジョンをお持ちじゃないかと感じて、僕は勝手に期待しています。
「日本の演劇」未来プロジェクト対象公演
株式会社オポス
2024年10月25日~26日 福岡県福岡市 キャナルシティ劇場
有限会社グッドフェローズ
2024年12月21日〜22日 大阪府吹田市 吹田市文化会館メイシアター 中ホール
MICHInoX(劇団短距離男道ミサイル)
2024年10月23日~26日 大阪府大阪市 インディペンデントシアター2nd