地域の劇場としての課題と未来への展望 (江原河畔劇場、新歌舞伎座、博多座)

舞台芸術作品の上演にとどまらず、そこに集う人々のコミュニケーションの場としてもさまざまな進化を遂げてきた劇場。とくに“地域”においては文化のハブとして、多様な交流やコミュニティが発生する事例も多く報告され、劇場が担う新たな役割についても注目が集まっています。

今回は「劇場」をテーマに、異なる地域で活動する3劇場の皆さまに、独自の取り組みや地域との連携についてお話いただきました。

 

鼎談参加者(五十音順)

一般社団法人江原河畔劇場 村井まどかさん

株式会社新歌舞伎座 梅田尚吾さん

株式会社博多座 藤田洋一さん

 

インタビュー・文/上村由紀子

鼎談実施日/2024年11月13日(オンライン)

 

劇場と地域との関係性

 

――まずはそれぞれの劇場が地域との関係性などをどう築いていらっしゃるかお話いただけますでしょうか。

 

藤田 博多座は周辺に川端商店街や中洲の繁華街もある博多区の劇場です。特に年に2回の歌舞伎公演では“船乗り込み”(歌舞伎俳優が船に乗ってご当地到着を知らせる、江戸時代から続く伝統行事)などの関連イベントがあり、これは地域や財界の皆さまのご協力なくしては成立させることができません。今後も地元の方々とのつながりを劇場としても大切にしていきたいと思っております。

 

村井 江原河畔劇場は豊岡市の日高地区にあった商工会館を改築し、2020年にオープンした劇場です。私たちにはこの日高地区の商店街の皆さんと一緒に、地域活性化を担うという役割もありますので、日々の活動でどんな貢献ができるかを考えつつ、地元の方たちから寄せられるご要望などにも丁寧に応えていきたいと考えています。

 

梅田 新歌舞伎座は長らく大阪の難波という繁華街にありました。そこからご縁があり、上本町に移転して14年になります。上本町には劇場のオフィシャルスポンサーである近畿日本鉄道さんの本社もありますので、近鉄さんとも連携を取りつつ、沿線地域の皆さまにも愛される劇場にしていくことが私たちの命題のひとつだと思っています。

藤田さんに伺いたいのですが、博多座さんに対してお祭りやイベントなどにご協力いただきたいといった地域の方たちからのお声がけなどは多いのでしょうか?ぜひ参考にさせていただきたいです。

 

藤田 先ほどお話した歌舞伎の船乗り込みには福岡市や地域の商店街、商工会議所、財界などで構成される実行委員会が立ち上がっており、そのバックアップを受けながら博多座が(松竹や出演者の)窓口となり運営している形です。また、これも歌舞伎関連になりますが、俳優さんが商店街などを練り歩く“お練り”などのときも地元から協力要請のお声がかかりますので、劇場として全面的に関わらせていただいています。

 

――江原河畔劇場さんはかなり地域未着型との印象があります。村井さん、いかがでしょう?

 

村井 現在、豊岡市の全小学校1年生、及び2年生を対象としたワークショップを実施しており、そこで演劇に興味を持った子どもたちが劇場に足を運んでくれたり、私たちが運営しているたじま児童劇団に参加してくれたりもしています。また、商工会議所からご希望をいただき、社会人向けの演劇ワークショップを開催する機会もあります。そういった活動の中で特に印象深いのが、たじま児童劇団に所属している高校生がふらっと劇場を訪れ(顔見知りの)劇場職員に入試の相談をする姿を見かけたことです。地域に暮らす彼女たちにとって、この劇場がとても身近な存在であるのだとあらためて感じました。

 

◯劇場そのものに“ファン”をつけること

 

――今の村井さんのお話にもリンクすると思うのですが、作品やキャストだけでなく、劇場そのものにファンをつけることなど意識していらっしゃいますか?

 

梅田 僕はそれを新歌舞伎座でも積極的にやる必要があると思っているのですが、観客として博多座さんに訪れるといろいろ圧倒されます。物販も凄いですよね。商品の入れ替えも演目ごとに頻繁にやっていらっしゃいますし。

 

藤田 支配人をやっていました頃、売店の担当もしていましたが、お客さまには百貨店に来たようなお気持ちになっていただければと考え、上演作品にもリンクするよう多彩なラインナップを揃えておりました。おもにミュージカル上演の際に提供するスイーツなども好評をいただいております。

 

――博多座さんといえばSNSでの発信も非常に活発で、特に前のめり観劇への注意喚起や各座席からの舞台の見え方などの投稿はシアターゴアーの間でも大きな話題となりました。こういうSNS戦略は意識的におこなっていらっしゃるのでしょうか。

 

藤田 宣伝担当者が演劇やミュージカルのファンの方に届くような発信ができるよう日々勉強しています。SNSですと画像などで視覚的効果もプラスできますので、若い世代をはじめ、いろいろな方により伝わりやすいですよね。

 

村井 SNSについてはまだ手探りの部分も多く、どう運用すれば良いのか迷っていますので、早速フォローして勉強させていただきたいです。

 

――新歌舞伎座さんは若い観客を含め、さまざまな年齢層の方が訪れる劇場との印象があります。演目の選定などどういう視点でなさっていますか?

 

梅田 私は編成も担当しているのですが、昨今の経済状況含め、いろいろクリアしなければならない問題もあるなか、新歌舞伎座、ひいては地域発信型のオリジナル作品をたくさん送り出すまでには至っておらず、このあたりは課題のひとつだと感じています。やはりどうしても首都圏で制作された作品を買い付けて上演する機会が多いのが現状ですね。ただ、新歌舞伎座は劇場運営が制作セクションも兼ねているという特性がありますので、今後も自主制作は継続していきたいと考えていますし、良い意味で“何でもあり”の劇場としてやってきましたので、お客さまのニーズに応える形で演目のラインナップを組んでいきたいと思っております。

 

――村井さんは劇場の代表理事であり、劇団青年団の俳優さんでもあるわけで、珍しいケースですよね。

 

村井 じつは江原河畔劇場の職員のほとんどは俳優です。劇場のオープンが2020年ですぐにコロナ禍に突入したこともあり、予定していた公演ラインナップの大幅な見直しが必要になりました。そこから私自身も助成金の勉強などを本格的に始め、今は少しずつではありますが自主事業も実施できるようになってきたという感じです。

 

◯地域の劇場としてのチケット高騰問題

 

――今、観客の間での大きな関心事がチケット高騰問題です。劇場関係者としての皆さまの想いやご意見など伺いたいです。

 

藤田 そこは博多座としても大変頭の痛い問題です。現在は各席種分けに加えて試験的にマチネ(昼公演)とソワレ(夜公演)、平日と休日とでチケット代に差をつけるダイナミックプライシングも導入しておりますが、やはり海外発のミュージカルなどは資材の高騰、円安の影響、別公演地からの輸送費などの問題もあり、以前に比べて値上げせざるを得ない状況はあります。

 

村井 劇団青年団の事例をお話しますと、東京で公演を打っていた当時は、大体4500円前後のチケット代でしたが、豊岡市に本拠地を移してからは3500円程度に抑えられるようになりました。装置や道具を格納できる倉庫があることも大きいかもしれません。また、チケット代の高騰とは直接関係ありませんが、こちらに来て、当日券の売れ行きが東京よりずっと良いという実感があります。口コミやふらっと劇場の前を通りかかって「ちょっと面白そうだから観てみようかな」など、農家の方や先の予定を立てづらい方たちが空いた時間に選択肢として観劇を選んでくれることもあります。事前にチケット買う人より、そちらの割合が東京公演より多い印象ですね。

 

梅田 村井さんのお話、とても面白いですね。それで思い出したのですが、新歌舞伎座が大阪・難波にあったときは、ポスターや劇場壁面に掲げていた懸垂幕などを目にして、当日、ふらっと来てくださるお客さまが多かったんです。ですが、今、劇場がある上本町は地下での乗り換えで鉄道の乗降客数は多いものの、用事のない方はなかなか地上まで上がっていらっしゃらない。もし、地域との連携で新歌舞伎座がランドマーク的な役割を担えたら、町全体の活性化にも一役買えるのでは、と考えています。

チケット代の高騰についてですが、特に輸入大型ミュージカルの場合は、海外クリエイターへの権利料やギャランティ関係、契約書締結の関連費用がドル建てで支払われるため、昨今の円安でかなり高騰し、そこがチケット代の値上げに大きく影響しているところもあると思います。

 

――演劇業界において、完全に明るい光が差すまでにはもう少し時間もかかりそうですが、最後に皆さまの未来に向けての展望など語っていただけますでしょうか。

 

藤田 今はお客さまのマスク着用も任意ですし、アルコールを含めた飲食も復活して、やっと劇場内の雰囲気が以前と同じようになってきた気がします。引き続きできる限りの感染症対策をおこないながら、博多座らしい楽しく元気な上演ラインナップで地域の皆さまをはじめ、ご来場のお客さまに喜んでいただける劇場運営を目指します。

 

村井 少しずつではありますが、地域の劇場としての役割や方向性が見えてきた気がしています。子どもたちがメインのたじま児童劇団や、障害をお持ちの方たちとワークショップや作品創作をおこなうひょっこりシアターなど、俳優ではない一般の方たちとの舞台制作の必要性も身をもって感じていますし、これらの活動は継続していきたいです。また、同時に、この劇場で制作した作品を、東京や海外の演劇祭などにも持っていくような、地域に密着しつつ、世界にも発信していくような劇場でありたいと思っています。

 

梅田 コロナ禍で培われたもののひとつが演劇界での横の繋がりだと感じます。緊急事態舞台芸術ネットワークが立ち上がったお陰で、これまで抱え込みがちだった悩みや疑問などを共有する機会が増えたことは非常にありがたいです。なかなか難しいところもあるとは思いますが、それぞれの劇場や担当者が個々で頑張るだけではなく、同じライブエンターテインメント業界の一員として、上手く協力や連携をしながら一緒にやれることが増えていったらいいと考えています。また、劇場での合理的配慮(アクセシビリティ)についても、さまざまな事情のお客さまに楽しんでいただけるよう、新歌舞伎座としての取り組みを今後も続けていきたいです。

 



 

「日本の演劇」未来プロジェクト 対象公演

江原河畔劇場へ行こう!プロジェクト

河畔の時間vol.3 キッズシアターday -夏休み2本立て公演-

『ちっちゃい姫とハカルン博士』『ちっちゃい姫とシャベルン博士』

2024年8月10日〜13日 兵庫県豊岡市 江原河畔劇場

 株式会社新歌舞伎座

太鼓たたいて笛ふいて

2024年12月4日〜8日 大阪府大阪市 新歌舞伎座

株式会社博多座

六月博多座大歌舞伎

2024年6月2日〜17日 福岡市博多区 博多座

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