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俳優、ミュージシャン、クリエイターなどアーティストのマネジメント事業に加え、演劇の制作も積極的に手掛ける株式会社キューブ。2024年6月から8月にかけてはナイロン100℃ 49th SESSION 『江戸時代の思い出』を全国4都市にて上演し、全公演を完走。大学卒業後にこの世界に入って以来、さまざまな現場を見つめてきた制作統括・浅見亜希子さんに現在の舞台公演における取り組みや実感などをお話いただきました。
インタビュー・文/上村由紀子
取材日/2024年11月22日
――ナイロン100℃ 49th SESSION 『江戸時代の思い出』は新型コロナウィルスの扱いが2類から5類に移行した約1年後に東京、新潟、兵庫、北九州の4都市で上演されました。現場での感染症対策などに変化はありましたか?
主催者はつねに中止や延期といったリスクを負っていますので、制作サイドによる感染症対策などは新型コロナウィルスが2類だった頃の方針を基本としています。ただし検査体制や稽古中のマスク着用などについては、現場の負担になり過ぎないように運用している状況です。これはコロナ禍以前の話ですが、ある作品で出演者がインフルエンザに罹患し、公演中止を余儀なくされたことがありました。その当時と比べ、今はあらゆる感染症やその対策について社会全体の知識が増え意識も高まっていますので、そこは良い変化かと思います。
――2024年の法律改正により、トラックを使用した輸送費用などが増大しています。
予算書に目を通すたびに悩ましい気持ちになります。もちろん、これからはあらゆる分野での労働環境が適正にならなければならないですし、今の形をスタンダードにしていく必要があります。首都圏以外の公演においては、上演日程の組み方に影響は出ています。
――経費の増大は当然、チケット代にもリンクしてきますよね。
地域公演の場合は各主催者さんが最終的なチケット代を設定するのですが、諸経費の問題もあり、中には東京での価格を上回ってしまうこともあります。今回の『江戸時代の思い出』については、劇団公演ということもあり、関係者のご理解のもとで他のプロデュース公演よりもチケット代をなるべく低く抑える方向で調整をおこないました。
――制作側としてチケット代の高騰についての危機感や新たな試みなどがあれば教えてください。
チケット代の高騰により、若い人たちが演劇を観る機会が減っていると肌で感じ、危機感を抱いています。その一方で自社で制作する舞台作品のチケット代を低く設定してしまうと、クリエイターや現場のスタッフさん、出演者に充分なお支払いができなくなる危惧があり……これは制作側としてつねに抱えている矛盾です。それを打開する工夫のひとつとして、休日と平日の昼夜とでチケットの価格に差をつけ、トータルでの売上合計金額を調整するという試みもおこなっています。また他の団体の公演では、公演日程を前半、中盤、後半に分けて、それぞれ異なるチケット代を設定する方法や、最前列に特典を付けてプレミアムな価格にするなどの方法も見かけました。
チケット代の高騰に備えて、制作側が何かしらの手を打っていかないと、最終的には自分たちの首を絞めることにもなりかねないと思っています。多様なお客さまのニーズを把握してそれに応えられるよう、チケット代の設定についてはいろいろ探りながら試していきたいですね。
――ご実感としてソワレ(夜公演)よりマチネ(昼公演)の方が観客の需要が多いとお思いにになりますか?
作品のテイストやトータルの上演時間、劇場の規模や場所にもよります。弊社の次回公演『消失』(2025年1~2月)ではU-25を除いて平日の昼、平日の夜、土日とチケット代を3つの種類に分けてみたところ、それまで平日は昼の方が人気がありましたが、今回は夜の方が売れ行きが良いです。一方で土曜日は昼夜同じ価格となりますと、昼の方が売れます。お得感があれば夜を選ぶことができる層がある程度いる、ということがわかりました。私たちとしては、観劇を夜の文化に取り戻したいという思いもありますので、夜公演にも足をお運びいただけるよう、今後もいろいろな施策を重ねていくつもりです。
――観客層を拡げるための取り組みなどありましたら教えてください。
「創客」という言葉について、可児市文化創造センターの取り組みの中で衛紀生さん(※~2020年同センター館長兼劇場総監督、現シニアアドバイザー)が「継続的な観客をつくりだすには、身内意識、親近感を持ってもらうことが大切である」という意味合いのことをおっしゃっています。これに通じることとして、芸能事務所にできる施策のひとつはファンクラブサービスです。また、プロの俳優以外にも門戸を開いた演技ワークショップなどを実施しています。最近では河原雅彦が講師を務め『一富士茄子牛焦げルギー』という弊社製作の朗読劇を題材にしたのですが、中学生から70代までさまざまな年齢層の方が参加してくれました。まだささやかな取り組みではありますが、こういう形で演劇に触れていただくことで多くの方に舞台を身近に感じてもらえたら嬉しいです。とにかく、若い世代の観客が演劇に興味を持って劇場に足を運んでくれなければこの業界に未来はありませんから。また、それと同時に、希望を持って舞台芸術の世界に入ってきてくれた若手の人材が働きやすい環境を整えることが、私たち世代にできることだと感じています。
株式会社キューブ
第8ルーム長
浅見亜希子(あさみ・あきこ)
東京都墨田区生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。
大学卒業後、株式会社リコモーションに新卒入社、大阪にて約3年半勤務。
1997年株式会社キューブ設立に伴い出向、のちに転籍。
俳優マネジメントを経て、現在はクリエイターマネジメントと舞台製作を担当する。
「日本の演劇」未来プロジェクト 対象公演
2024年8月3日〜4日 兵庫県西宮市 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール