生の熱や温度を、醍醐味だと思ってもらえるものを (石井光三オフィス 石井久美子さん)

俳優、タレント、またマネージャーとして活動した石井光三さんが1983年に設立した石井光三オフィス。コント赤信号などタレントのマネージメントや舞台制作などをおこない、2005年より石井久美子さんが社長を引き継いでいます。ツアー公演にも力を入れており、2024年8月の夫婦印(めおとじるし)プロデュースでは5か所6公演を実施しました。生(なま)を届ける、そこにかける思いを石井さんにお話しいただきました。

インタビュー・文/中川實穗
取材日/2024年11月7日

 

◯広がっていく、ということが難しい時代に

 

――新型コロナウイルス感染症の位置づけが「5類感染症」になって約1年経ちますが、公演を行う中で感じる変化などはありますか?

 

現場としては、全てが戻ったというような感覚ではないです。稽古場では今も「どこまでマスクをするか」の話をしていますし、一人熱や咳が出ると稽古を止めざるを得なかったもしますから。お客様の層も、演劇ファンや俳優ファンの方はだいぶ戻ってきてくれているように感じますが、そういう方が以前のように、演劇にあまり興味のない方を誘って来てくださるということが減って、だから広がっていくということが難しくなりました。お一人でいらっしゃるお客様が増えましたし、二人以上の場合はご夫婦だったり親子だったり身内の方と一緒の方が多く、お友達同士でいらっしゃっている方が減ったと感じます。だけどこれはコロナというよりは経済の影響のほうが大きいでしょうね。コロナ禍に演劇が「生きていくために必要か必要じゃないか」と議論されましたが、今はシビアに生活費から演劇のチケット代を捻出していただくことが難しくなっている。だから演劇を観たことがなく、そこに価値を感じていない人を劇場に誘うことはしにくくなっているのかなと感じます。そこがコロナ前と後の明らかな違いではないでしょうか。

 

――そういう新規のお客様が増えにくい状況に対して対策は考えていらっしゃいますか?

 

なんでもスマホでできる時代に生(なま)の価値をどう伝えるか、そこを考える必要があるのかなと思います。チケットの価格は高騰していますが実際はギリギリでやっていたりするので、下げることは難しい。その中でも「演劇に価値はある」と言えるかどうか、それが本当に勝負になっていると思うんです。誰もがスマホの中で映画も観ますしコミュニケーションも行う時代に、なぜ生で演劇を見せたいのか。例えば、私はこまつ座さんの公演を観た後はついいつも声に出して「意味がある!」と言ってしまうんです。戦争の悲惨さを知る方法は、ドキュメンタリーだったりニュースだったりたくさんあります。だけど悲惨一色のような時代も、そこには人間がいて、泣いたり笑ったりした時間があった。そういうことを情報の中で受け取ることは難しい。だけど演劇なら伝わるのではないでしょうか。舞台上で、生身の人間が目の前で泣いたり叫んだり笑ったりするから届くものがある。それが生でやっていく意味で、そこが伝われば価値を感じてもらえるのではと思っています。私たちは小規模な公演も多いので、生の熱や温度を至近距離で届けることがしやすい。そこが醍醐味であり贅沢であるとお客様に思っていただけるようなものをつくりたいです。

  

◯「大変だけど」を超え、地方に行くほど熱は高く

 

――助成対象公演となった2024年にツアー公演を行われた夫婦印プロデュース『満月~平成親馬鹿物語〜』をはじめ、石井光三オフィス主催の公演は全国各地を細やかに回っていらっしゃる印象があります。

 

『満月~平成親馬鹿物語〜』の山形県米沢市、岩手県一関市、岩手県盛岡市の公演は助成で文化庁の補助を受けて回らせていただきました。各地の「大変だけど一緒にやりたいです」という想いと、こちらの「大変だけど公演を持っていきたいです」という想いが実現してありがたかったです。やはり地方に行くほどお客様の熱は高いと感じます。演劇の性質上、カンパニー全員でその場所に行かないと上演ができない。だから余計に「生で届けてくれた」と思ってくださるんでしょうね。客席では「待ってたよ!」「私たちが受け取るよ!」と積極的な姿勢で観てくださるように感じます。今は満席にすることが大変ですが、できることをしていきたいです。

 

――今後どうしていきたいとお考えですか?

 

60代以上の人が「私たちの観るものがないな」とならないようにしたいと最近思うようになりました。若い人に観てもらう楽しい作品はたくさんあるのですが、時間の余裕ができた世代大人に観てもらう上質な作品が日本ではあまり定着していないなと感じます。なので、その世代の方がなにを観たいのかをもっと知りたいし、届ける努力をしていきたいです。これは私自身がその世代に近づいたからというのも大きいと思います。

お客様に対して演劇の価値をどう提供できるか。そこと向き合うには、本当に届けたいものをお客様の顔が見えた状態でつくらなければいけないと感じます。うちはそれがしやすい規模の会社なので、しっかりと取り組んでいきたいです。

 

 


「日本の演劇」未来プロジェクト 対象公演

夫婦印プロデュース「満月~平成親馬鹿物語〜」(改訂版)

2024年8月17日 山形県米沢市 伝国の杜 置賜文化ホール

2024年8月31日 岩手県一関市 一関文化センター 中ホール

2024年9月1日 岩手県盛岡市 盛岡劇場

 

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