演劇を持続可能な文化として育てていきたい
(ゴーチ・ブラザーズ 笹岡征矢さん)

劇団四季をはじめ、さまざまな舞台で俳優として活動し、30歳で舞台制作者へと転身した笹岡征矢さん。現在はゴーチ・ブラザーズに所属しプロデューサーとして多彩な作品創作に関わっています。初めて笹岡さんがプロデュースを担当した『ブレイキング・ザ・コード』から約1年半。2作目となる舞台『モンスター』(2024年11~12月公演)の稽古場を訪問し、舞台制作についての現在の取り組みや今後の展望をうかがいました。

インタビュー・文/上村由紀子
取材日/2024年10月29日

 

――笹岡さんが前回ご担当なさった『ブレイキング・ザ・コード』は新型コロナウイルス感染症が5類に分類される直前、2023年4月の上演でした。あれから約1年半が経ち、現場の変化などどのように感じていらっしゃいますか?

『ブレイキング・ザ・コード』のときは、出演者や関係者の間でもっと密にコミュニケーションを取りたいと思っても、実際の稽古中や本番の舞台以外ではそれが難しい状況でした。ですが今回の『モンスター』の稽古場では人と人との物理的な距離をあまり気にすることなく、カンパニーとして濃密な関係性を築けていると感じます。ディスカッションもより闊達におこなわれるようになりました。

――コロナ禍でスウィングの重要性が認知された面もあると思うのですが、『モンスター』ではどういう対応をなさっているのでしょう。

『モンスター』の出演者は4名で、どの役も絶対にこの人にお願いしたいとの強い思いでキャスティングしたこともあり、スウィングの方には入っていただいていません。万が一、体調不良者が出てしまったら……と考えると正直怖いところもありますし、プロデューサーとしては公演を止めないためにあらゆる手を使うべきでは、と揺れる気持ちも勿論あるのですが、今回はあえてこのやり方を選びました。

◯いつか47都道府県でプロデュース作品を上演できたら

――『モンスター』は大阪公演を皮切りに、水戸、福岡、東京と各地域で上演が予定されています。現在、輸送費等の経費が軒並み値上がりするなかで、首都圏以外の公演を実施しようと思われた理由を教えてください。

僕は松山の出身で、子ども時代は演劇やミュージカルに触れる機会があまりなかったのですが、地元のホールに劇団四季が来てくれて、その舞台を観たときに凄く感動したんです。四季のように全国津々浦々まで演劇を届けに行くことはまだ難しいですが、今回『モンスター』を首都圏以外の地域に持っていくことがいつか47都道府県すべてで公演を打ちたいという自分自身の大きな野望への第一歩になると信じて、各地域での上演を決めました。

――『モンスター』では鑑賞サポート(抽選制)も導入されていますね。

弊社代表の伊藤(達哉氏)とも話し合いまして、鑑賞サポートの実施はさまざまな立場のお客さまにどうしてもお届けしたいと考え、今回取り入れました。手探りの部分も多いですが、生の舞台の素晴らしさを感じていただけたら嬉しいです。

◯観客、プロデューサーとしてチケット代に思うこと

――2023年頃から舞台のチケット代が大幅に値上がりしていますが、プロデューサーとしてどうお考えでしょう。

いや、本当にそうですよね。僕もひとりの観客としては、以前よりチケットの購入に関してシビアになりました。「自分はこの作品にこの金額を出せるのか?」って吟味もしますし(笑)。逆にプロデューサーの立場では「チケット代をもう少し上げればもっと凄い美術セットを組めるかも」と悩みながらギリギリのラインで金額を決めている状況です。前作の『ブレイキング・ザ・コード』では、上演期間の前半と中盤、後半とで3パターンのチケット代を設定したことに加え、U-25(25歳以下)の料金も組み入れました。2024年のトラック問題や舞台装置の資材費の高騰もありますし、チケット料金の設定に関してはきっとこれからも試行錯誤を続けると思いますが、今回の『モンスター』のチケット代は絶対に1万円以下にしたかったので、そこはこだわりました。

――プロデューサーとして未来に向けての“野望”や“希望”がありましたらぜひ教えてください。

どうしたら演劇を持続可能な文化として世の中に送り出していけるのかずっと思案しており、たまに考えるのが、まったくこの業界に関係ない人たちと一緒に作品を創ってみることです。たとえばゲームやショッピングモールを作っている人、製菓業界の方など。共通言語が少ない異業種の人との創作は大変なことも多い反面、大きな気づきを得られる気がしますし、将来的に演劇の観客のすそ野を広げるきっかけになるのでは、なんて思っています。


有限会社ゴーチ・ブラザーズ
プロデューサー
笹岡征矢(ささおか・ゆうや)

1990年生まれ。愛媛県松山市出身。2009年劇団四季入団。主な出演作品に『CATS』『ウエストサイド物語』『コーラスライン』等。2014年退団後の出演作に『Endless SHOCK 2016』『ニンゲン御破算』『フリムンシスターズ』等。
2021年より、『シラノ・ド・ベルジュラック』『セールスマンの死』など多くの作品でプロデュース業を学び、2023年『ブレイキング・ザ・コード』で初プロデュース公演を行う。


「日本の演劇」未来プロジェクト 対象公演

モンスター

2024年11月30日〜12月1日 大阪府大阪市 松下IMPホール

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