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――観劇にはルールがありますが、それを知っている人もいれば知らない人もいて、さらには個人個人の事情があるという中で、それに対応するスタッフとしてどのようなことを意識されていますか?
荒明 劇場のルールに関しては、やはり何百人という人が同じ空間で一緒に観ているので、できれば同じルールで楽しんでほしいという気持ちはあるんですけど、その方にとっては守りにくいルールってあると思うんです。さっきの目線に手すりがあるとかもそうですし、普段は帽子は取っていただきますが、どうしても被っていなければいけない事情があるとかもありますし。そういう方に「でもこれがルールなので」と言ってしまうのは無理強いで、その方にとっては環境が悪いまま観なければいけないことになってしまう。だからある程度ルールからはずれても、その方の正解と周りのお客様の正解に近づけるように、お話しして妥協点を探します。そこに主催者様にも入ってもらうこともあります。コミュニケーションで解決することもあると思うので、そこで話すのは大切かと思います。
――その場で起きていることを休憩時間や開演までの短い時間で解決する必要のある仕事ですが、どんな考え方をされていますか?
荒明 「こういうことはやめてほしいな」というお客様に対して、まずは「どうしてそうしてしまうんだろう」と考えてみるようにしています。ご本人というより周囲の席の方の影響である可能性もあるし、身体に事情があるのかなとか、客席に不都合なことがあったのかなとか、その方だけに注目するのではなく、周りの環境とか周りの方の様子を観察して、どういう対応が一番適しているのかをみんなで知恵を出し合います。日々その積み重ねですね。
――特に印象的だったエピソードを事前にいくつかいただいたのですが、「座席のひじ掛けは左右どちらの席のものかはっきりせよと詰め寄られた」というのは、どう対応されたのか気になりました。
八尋 お客様同士で肘がぶつかって揉め事になり、その中で「そもそもこれはどっちのものなんだ」と強く尋ねられたことがありました。その時は「譲り合ってお使いいただければ」というふうにお話しました。ただ、以前に比べると、人のことが気になる方が増えているなというのは体感としてあります。例えば「自分の視界が遮られているけどどうすればいいですか」というようなことではなく、「あの人のあの行動は許せない」「あれはマナー違反じゃないのか」というようなご意見です。今や「微動だにせず観ていないとダメ」という空気になっていて、どうなっちゃうのかなという気持ちにはなります。
――そこを受け止めるの、大変じゃないですか? どうやって受け止めていますか?
荒明 お話しされる方が、「どうにかしてほしい」と思っていらっしゃるのか、「この気持ちを知ってほしい」と思っていらっしゃるのかにもよります。でもまず意識していることは、どちらの場合も同じで、一旦気持ちに寄り添って耳を傾ける。そこに徹するという指導をしています。
――コミュニケーションがやはり大事なんですね。そのコミュニケーションでいうと、外国からのお客様って増えていたりしますか?
荒明 ここ数年は、例えばパルコ劇場さんなどは、渋谷パルコ自体に外国のお客様が多いので、ふらっといらっしゃって「なにを上演していますか?」と尋ねてくる方は増えたなと思います。
八尋 あとミュージカルは中国や台湾のお客様も結構多いんですよ。日本に旅行に来たらミュージカルを観てみようみたいな流れがあるみたいで。
――文化が違うお客様の対応は、普段とは違うこともあるかなと思いますがどうですか?
荒明 やはり観劇ルールの認識が違うので、上演中に写真を撮り始める方とかいらっしゃって、そういう時に言葉の問題でうまく伝えられなかったりということがありますね。
――英語だけ話せればいいわけじゃないですしね。
八尋 そうですね。公演中は会話もできないので紙に書いて見せるとか、いろいろな方法を試してみています。ここはまだ模索中ですね。