シリーズ:劇場のホスピタリティ 「劇場案内スタッフを育てる仕組み」

〇例えば、見えにくい席があった時

――さっきの見切れ席の話で、個別の対応もうかがいたいのですが、まずは劇場とはどんなふうに共有していくのですか?

荒明 設備面はすぐに改善できるものではないので、蓄積になります。「毎回この席はお客様からお声があがる」という席にはチケット販売の際に注釈を入れてもらったり、その注釈の文言も「見えにくい可能性がございます」ではなく「一部見えません」と言い切るとか、販売するプレイガイドを絞るとか、そういった対応を検討していただくことが最近は増えてきました。

――設計上見えない席ってありますよね。

荒明 どうしても出てきますね。そのような席をリスト化して提出したこともあります。どの席のお客様からこういう内容のお声をいただいた、ということを整理して。その席に関しては、「この席は前傾姿勢で見てください」と言ってしまうか?という論議が行われたこともあります。

――その場での対応はどうされていますか? 私自身も以前、“視界が手すり”という席に座ったことがあって、事情を説明してクッションを貸してもらえないか尋ねたら子供用だからと断られ、手すりを3時間観てろってこと?と不満に思ったことがあります。

荒明 やはりお客様はお芝居を観に来ていらっしゃるので、見えないという方に対して「ルールを守ってください」と言うのは、「観ないでください」と言うようなものだと思うんですよ。ただそこでじゃあ前傾姿勢になってしまうと後ろの席の方が見えないし、どうすれば和解になるんだろうということは日々考えますね。

――そういう時はどうされるのですか?

荒明 別の席にご案内することが多いですが、できない場合はその席で満足していただくしかないので、「気休めにしかならないかもしれませんが、ブランケットを敷いてみましょうか」と提案したりします。「じゃあこれでがんばって観てみます」と言ってくださることもありますし、「こんなんじゃ観えないよ」ということもありますし。

――たしかに、なんとかしようとしてくれたってだけで救われる気持ちはあるだろうなと思います。私がさっきの対応に不満だったのは、事務的に「子供用だからだめです」とだけ言われたことが大きかったような気がしています。ただそう考えると改めて、瞬間瞬間の対応にけっこうなものを求められる仕事ですね。経験値がかなりものを言うというか。

荒明 そうですね。なので終礼では、その日にあったことを次に役立てられるように、「こういうことがあって、こういう相談を受けて、こういう対応をして、こういう反応だったから、同じようなことがあれば活かしましょう」という話を毎日毎日して、共有しています。

――ちなみにそれは劇場にも報告しますか?

荒明 やはりお客様から直接お声をいただくのは、我々劇場にいるスタッフのほうが断然多いと思うので、直接でないと聞くことができないような小さなお声も劇場の方にご報告するようにしています。我々がもっとこうしたいなと思うようなことを直接お話しすることもあります。

公演の度にたくさんのお客様を迎え、最初の窓口になる役割

――ヴォートルさんはいくつもの劇場にスタッフを派遣されていますが、劇場ごとの共有もなさっているのでしょうか?

荒明 社内の会議で共有しています。その中から、いろんな現場で応用できそうなことは、各劇場でレクチャーをしたりします。また弊社の臨時社員(アルバイト)スタッフは複数の劇場で勤務をしているため、その現場で知れるということもありますね。

――劇場専用スタッフではないのですね。

八尋 会社の方針でそうしていないんです。劇場ってそんなに広い空間ではないので、同じところだけに行っていると、スタッフ間の換気が悪くなることもあるし、例えばベテランで20年とかいると、その劇場のルールを「このホールはこうですから」と無意識のうちにお客様に押し付けてしまったりもすることがあって。そうならないように、いろんな劇場に行って毎回新鮮な気持ちでお客様と触れ合ってほしいっていう考えから、最低でも2~3か所は行けるようにしています。


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