シリーズ:劇場のホスピタリティ 「『ここで観たい』と思われる劇場づくり」

〇自分たちの魅力を探して見つける

――私は普段は東京の劇場に行くのですが、たまに遠征して博多座さんに訪れます。その時に感じるのは博多座で働く方々の活発さで、なにか独特な空気があると思います。

西中 僕らは2024年で25周年なのですが、劇場としては後発組なので、最初の頃は「帝国劇場さんみたいにちゃんとして」とか「歌舞伎座さんみたいになるように」とか、すごく言われたんですよ。

舞台から見た博多座客席

城戸 オープン当初は「東京だったらこんなことないのに」というお叱りをかなりいただきました。

西中 「これだから田舎は」とか「素人」みたいなことも言われたよね。実際、昨日今日開いたばかりの劇場でしたから。

城戸 なので、どうすればもっと良くなるかはオープン当初から常に課題でした。手探りでやっていくしかなかったですし。

西中 そういう意味では、追いついてないと思っているんです、今も。

城戸 そうですね。ずっとコンプレックスなんです。だからお客様から「博多座のスタッフがすごくいい」と言われ始めた時は「うそでしょ?」って。疑いしかなかったです(笑)。「比べられる土俵に上がっていないので、私たち」っていう気持ちでした。

――そう言われ始めたのは、いつくらいでしたか?

城戸 オープンから10年前後の頃に直接言われるようになったと思います。当時の支配人が「もっとフレンドリーにしよう」という方向性を示されたんです。

西中 当時の支配人は演劇とは無縁というか、長らく個人でご商売をなされた後に、博多座に入社されて、劇場の支配人に就任された、というちょっと変わった経歴の方で。考え方が「お迎えする」というよりも「一緒に」という感じでしたよね。

城戸 お客様への案内について「この方が自分の身内だったらと思って接しなさい」と言われたことがあって、そこでフッと肩の力が抜けました。それまでは「きちんとしなきゃ」「もっとちゃんとしなきゃ」と思って、お客様にマナーを守ってもらうために、どちらかというと“注意”に行く、みたいなイメージだったのですが、支配人から「いやいや、悪気があってしているわけじゃないんだから“注意”じゃないよ。“お願い”をしに行きなさい」って。「親がそう言われたらどう思うね?」と言われたことはひとつのきっかけかもしれないです。

――博多座さんのムードと直結するエピソードで、一気に納得できました。

城戸 ずっと「ちゃんとする」というのは施設の人間として当たり前だと思っていたのですが、もっと私たちなりのやり方があるかもしれないと思いました。もちろんそれまでである程度の基礎を確立していたというのもあってのことなのですが。そこからは、劇場内のスタッフも、基礎があったうえで、個人個人が思う「プラスαの心配り」をしていこう、というふうに後輩たちに伝えるようになりました。それが今まで継承され続けていますし、当時よりさらによくなっていっていると思います。

西中 城戸さんはオープンからずっと働いてくれていて、教育係も担当していたので。

――博多座さんの案内係のスタッフさんは研修などはされるのですか?

城戸 まず机上研修が一日あります。でも資料をもらって一日研修してもほとんどわからないので、そこから約2か月間、先輩が付き添ってマンツーマンで研修をして、そこから独り立ちです。

岩戸 その間は「研修中」のカードをつけて立ちますよね。

城戸 はい。ご年配の方にもわかるくらい大きいものをつけています。

――さっき話してくださったようなフレンドリーな精神は言葉で伝えるのですか?

城戸 いえ、「こう接しなさい」とかは言わないです。さっき申し上げたようなお話を直接話したことはないですが、「業務+自分の心を添える」ということは継承されていて、更にバージョンアップしている感じはします。

――ちなみにロビーの売店の方は博多座さんのスタッフではないですよね?

城戸 そうですね。各テナントから来ていただいています。ロビーの売店も公演に合わせて商品を変えていただいたり、公演に即したテナントにお声がけして出店してもらったりして、毎公演来ても必ず違う商品に巡りあえるように、常連の方にも飽きがこないように、というような努力はしています。

岩戸 売店の人たちもすごくやさしいですよね。

――はい、私もそれは感じます。明るいし、まさにフレンドリーで。

城戸 テナントの方も楽しんでいらっしゃいますね。常設テナントとは月に一回のミーティングと、案内係と一緒に朝礼に参加していただいています。上演作品の内容も伝えて、HPの情報は必ずチェックしてくださいとか、可能な限りゲネプロにも参加してくださいとお願いして、観ていただいています。そうすると、テナントの方がご自身で公演グッズを買い求めて、身につけたり、店頭にアクスタを飾ったりして(笑)。

岩戸 楽しそうなんですよね。

城戸 お客様と気持ちを共有しようと思っていらっしゃいますね。

――ゲネプロを観ているというのはかなり大きいのかもしれないですね。お客様の気持ちがわかるし、幕間や終演後のテンションもわかるので。

城戸 そうですね。お客様が「あのシーンがよかった」とおっしゃったら「そうですよね!」というような会話もできますし、Wキャストの時は「○○さんのあのシーンがよかった」「私は◎◎さんのほうを観ましたがそちらも素敵でしたよ」みたいな会話が生まれて、お客様が「じゃあそっちも観ようかな」とチケットを買ってくださったりもします。

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